ケアマネの独立、主任ケアマネなしでは始まらない。要件と「44人の壁」
監修者

名前 / Name
大石 智之
実績 / Achievements
介護・福祉業界に入り、現場のホームヘルパーとして介護の実務経験を積む。
その後、デイサービスの立ち上げおよび責任者、訪問介護事業所の立ち上げおよび責任者、福祉用具貸与事業所の責任者を歴任。
さらに、居宅介護支援・訪問介護・福祉用具・デイサービスの各事業を統括する責任者として、介護事業の運営・マネジメントに携わる。
約7年間の勤務を経て独立し、居宅介護支援事業と福祉用具事業を柱として株式会社ログを設立。
設立後は地域に根ざした介護・福祉サービスの展開を進め、現在は居宅介護支援事業所10事業所を中心に、複数の介護・福祉事業の経営・運営を行っている。
現場の介護職から事業所の立ち上げ、管理・統括、そして経営まで、介護・福祉事業に幅広く携わっている。
ケアマネとして独立し、居宅介護支援事業所を立ち上げたい。そう考えたときに最初に確認すべきは、開業ノウハウではなく省令が定める要件です。管理者は原則として主任介護支援専門員でなければならず、担当できる利用者数にも基準があります。この記事では厚生労働省令の条文をもとに、独立の前提条件と収益構造の限界を整理します。
独立の前提となる人員・管理者の要件
まず押さえるべきは、事業所として指定を受けるために満たすべき基準です。ここをクリアできなければ、事業計画を立てても意味がありません。
常勤の介護支援専門員を1人以上置く
「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第38号)第2条は、指定居宅介護支援事業者は事業所ごとに、指定居宅介護支援の提供に当たる介護支援専門員であって常勤である者を1人以上置かなければならないと定めています。
自分ひとりで独立する場合、この常勤の介護支援専門員が自分自身になります。逆に言えば、非常勤だけの体制では事業所として成立しません。
出典:厚生労働省「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第38号)」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82999405&dataType=0&pageNo=1
管理者は原則として主任介護支援専門員
見落とされやすいのが管理者要件です。同基準第3条は、事業所ごとに常勤の管理者を置くこととし、その管理者は主任介護支援専門員でなければならないと定めています。ただし、主任介護支援専門員の確保が著しく困難である等やむを得ない理由がある場合については、介護支援専門員を管理者とすることができるとされています。
さらに経過措置として、令和9年3月31日までの間は、令和3年3月31日時点で指定を受けている事業所において、同日における管理者である介護支援専門員が引き続き管理者である場合に限り、主任介護支援専門員でなくても管理者となれるとされています。これはあくまで既存事業所の継続を認める規定であり、これから新規に開業する人が使えるものではありません。
つまり独立を目指すなら、主任介護支援専門員の取得が実質的な前提条件になります。
出典:厚生労働省「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第38号)」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82999405&dataType=0&pageNo=1
管理者は原則専従、ただし兼務は可能
同基準第3条第3項は、管理者は専らその職務に従事する者でなければならないと定めています。ただし例外があり、管理者がその管理する事業所の介護支援専門員の職務に従事する場合と、管理に支障がない範囲で他の事業所の職務に従事する場合は、この限りではないとされています。
ひとりで開業するケースでは、管理者と介護支援専門員を兼務する形が一般的です。この兼務は条文上明確に認められているため、体制としては問題ありません。
出典:厚生労働省「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第38号)」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82999405&dataType=0&pageNo=1
売上の上限を決める「44人ルール」
独立の収益計画で最も重要なのが、1人あたり何人まで担当できるかです。ここには明確な基準があり、事業規模の上限を実質的に決めています。
利用者44人ごとに介護支援専門員1人
同基準第2条第2項は、介護支援専門員の員数の基準について、利用者の数が44またはその端数を増すごとに1とすると定めています。介護予防支援を行う場合は、その利用者数に3分の1を乗じた数を加えて計算します。
つまり、ひとりで開業した場合に担当できる利用者数はおおむね44人が上限です。居宅介護支援の収入は保険給付である居宅介護サービス計画費が中心となるため、担当件数の上限がそのまま売上の上限を規定します。開業前の収支計画は、この人数を前提に組み立てる必要があります。
出典:厚生労働省「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第38号)」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82999405&dataType=0&pageNo=1
2つの条件を満たせば49人まで引き上げられる
同条第3項には重要な例外があります。事業所が、公益社団法人国民健康保険中央会が運用および管理を行う、居宅サービス計画の情報の共有等のための情報処理システムを利用し、かつ事務職員を配置している場合には、員数の基準が利用者数44ごとから49ごとに緩和されます。
上限が5人分増えるということは、その分だけ売上の天井が上がることを意味します。ただし事務職員の人件費が発生するため、独立初期にどちらを選ぶかは慎重な判断が必要です。少なくとも、この選択肢が制度上用意されていることは事業計画に織り込んでおくべきです。
出典:厚生労働省「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第38号)」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82999405&dataType=0&pageNo=1
収入の性質が「保険給付」であることの意味
居宅介護支援の主たる収入は保険給付です。利用者から自由に料金を設定して受け取るビジネスとは構造が異なり、単価は制度で決まります。
同基準第10条は、利用料と居宅介護サービス計画費の額との間に不合理な差額が生じないようにしなければならないと定めており、通常の事業の実施地域外を訪問する場合の交通費を除いて、上乗せの収受は想定されていません。「単価を上げて増収する」という発想が使えない以上、独立後の経営は件数管理と経費管理が中心になります。
出典:厚生労働省「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第38号)」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82999405&dataType=0&pageNo=1
独立後に必ず求められる運営基準
指定を受けた後も、省令が定める運営基準を継続的に満たす必要があります。特に独立直後に見落とされやすい項目を確認します。
公正中立の徹底と利益収受の禁止
同基準第25条は、事業者および管理者が、介護支援専門員に対して特定の居宅サービス事業者等のサービスを位置付けるべき旨の指示等を行ってはならないと定めています。介護支援専門員自身も、利用者に対して特定の事業者のサービスを利用すべき旨の指示等を行ってはなりません。
さらに、特定の事業者のサービスを利用させることの対償として、当該事業者から金品その他の財産上の利益を収受してはならないとされています。営業上のつながりが収益に直結しやすい独立事業所ほど、この規定の重みは大きくなります。
出典:厚生労働省「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第38号)」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82999405&dataType=0&pageNo=1
重要事項のウェブサイト掲載が原則義務
同基準第22条は、事業所の見やすい場所に運営規程の概要等の重要事項を掲示することに加え、第3項で「原則として、重要事項をウェブサイトに掲載しなければならない」と定めています。この規定には令和7年3月31日までの経過措置が設けられていましたが、その期間は既に終了しています。
独立にあたっては、事業所のウェブサイトを単なる集客手段ではなく、法令上求められる情報公開の場として準備する必要があります。
出典:厚生労働省「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第38号)」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82999405&dataType=0&pageNo=1
計画・体制整備・記録保存の義務
ひとり事業所であっても免除されない義務があります。同基準第19条の2は、感染症や非常災害の発生時に備えた業務継続計画(BCP)の策定と、それに従った措置、定期的な研修および訓練の実施を求めています。
第21条の2は感染症の予防およびまん延防止のための委員会をおおむね6か月に1回以上開催すること、第27条の2は虐待の防止のための委員会を定期的に開催し、指針の整備、研修の実施、担当者の設置を行うことを定めています。また第29条第2項は、居宅介護支援台帳等の記録を完結の日から2年間保存することを義務づけています。
これらは規模にかかわらず求められる事項です。開業準備の段階で様式や運用を整えておかないと、実地指導の際に指摘を受けることになります。
出典:厚生労働省「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第38号)」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82999405&dataType=0&pageNo=1
独立を決める前に確認しておきたいこと
要件と収益構造が分かったところで、判断の材料になる論点を整理します。制度が動いている時期でもあるため、周辺の動向も押さえておきましょう。
主任介護支援専門員の取得を先に済ませる
管理者要件を踏まえると、独立の準備は主任介護支援専門員の取得から始まります。研修の受講には実務経験の要件があり、都道府県ごとに募集時期も限られています。
「独立を決めてから取得する」のではなく、「取得の目途が立ってから独立の計画を立てる」という順序のほうが現実的です。取得までの期間を逆算し、その間に地域の関係機関とのつながりを作っておくと、開業後の立ち上がりが変わります。
制度改正の動きも視野に入れる
2026年6月25日に公布された「社会福祉法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第51号)により、介護支援専門員証の有効期間と、その交付・更新のために受講することとされていた研修が廃止されます。施行は公布の日から起算して1年6か月を超えない範囲内で政令が定める日です。
同時に、この法律では一定の要件に該当する有料老人ホームに係る登録制度が創設され、その入居者を対象とする「登録施設介護支援」という新たな類型も設けられました。ケアマネジメントを担う場面は制度上広がっており、独立後の事業領域を考えるうえでも押さえておく価値があります。
出典:厚生労働省「社会福祉法等の一部を改正する法律の公布について(介護保険最新情報Vol.1518)」https://www.mhlw.go.jp/content/001715668.pdf
最終的な判断は指定権者に確認する
人員基準や管理者要件の具体的な運用、必要書類、申請時期は市町村や都道府県が所管しています。省令は全国共通ですが、条例で定める部分や運用上の取り扱いには地域差が生じます。
事業計画を固める前に、開業予定地の指定権者に事前相談をしてください。特に管理者要件のやむを得ない理由の扱いは保険者の判断が関わるため、自己判断は避けるべき領域です。
ケアマネの独立についてよくある質問
独立を検討する際に迷いやすい点をまとめました。
ケアマネはひとりで独立できますか?
省令上、事業所ごとに常勤の介護支援専門員を1人以上置くこととされており、管理者と介護支援専門員の兼務も認められています。体制としては可能ですが、管理者要件を満たす必要があります。
主任介護支援専門員でないと独立できませんか?
管理者は原則として主任介護支援専門員でなければならないと定められています。確保が著しく困難である等やむを得ない理由がある場合の例外はありますが、新規開業を前提に当てにできるものではありません。
令和9年3月31日までの経過措置は使えますか?
使えません。この経過措置は、令和3年3月31日時点で指定を受けている事業所において、同日における管理者である介護支援専門員が引き続き管理者である場合に限られます。新規開業には適用されません。
何人まで利用者を担当できますか?
介護支援専門員の員数の基準は、利用者の数が44またはその端数を増すごとに1とされています。国民健康保険中央会が運用管理する情報処理システムを利用し、かつ事務職員を配置している場合は49ごとに1となります。
独立すれば単価を上げて収入を増やせますか?
できません。収入は保険給付が中心で、利用料と居宅介護サービス計画費の額との間に不合理な差額が生じないようにしなければならないと定められています。件数と経費の管理が経営の中心になります。
ひとり事業所でもBCPや委員会は必要ですか?
必要です。業務継続計画の策定と研修・訓練、感染症対策の委員会をおおむね6か月に1回以上開催すること、虐待防止の委員会の定期開催や指針整備などは、規模にかかわらず求められます。
ケアマネの独立についてのまとめ
ケアマネの独立は、開業ノウハウよりも先に省令の要件を確認することから始まります。管理者は原則として主任介護支援専門員である必要があり、経過措置は新規開業には使えません。担当できる利用者数は44人ごとに1人が基準で、これが売上の上限を規定します。事務職員の配置とデータ連携システムの利用で49人まで引き上げられる仕組みも用意されています。まずは主任ケアマネ取得の見通しから逆算してください。も定着が進みます。備も含めた逆算が欠かせません。

