産業ケアマネとは?企業で仕事と介護の両立を支える役割と、ケアマネの経験の活かし方
監修者

名前 / Name
大石 智之
実績 / Achievements
介護・福祉業界に入り、現場のホームヘルパーとして介護の実務経験を積む。
その後、デイサービスの立ち上げおよび責任者、訪問介護事業所の立ち上げおよび責任者、福祉用具貸与事業所の責任者を歴任。
さらに、居宅介護支援・訪問介護・福祉用具・デイサービスの各事業を統括する責任者として、介護事業の運営・マネジメントに携わる。
約7年間の勤務を経て独立し、居宅介護支援事業と福祉用具事業を柱として株式会社ログを設立。
設立後は地域に根ざした介護・福祉サービスの展開を進め、現在は居宅介護支援事業所10事業所を中心に、複数の介護・福祉事業の経営・運営を行っている。
現場の介護職から事業所の立ち上げ、管理・統括、そして経営まで、介護・福祉事業に幅広く携わっている。
仕事をしながら家族の介護をする人が増えるなかで、注目されているのが「産業ケアマネ」です。介護の専門知識を持つケアマネが、企業の従業員の相談に乗り、介護離職を防ぐ役割を担います。現場の訪問とは違う形でケアマネの経験を活かせるため、働き方を見直したい人や、現場から離れている人の新しい選択肢にもなり得ます。本記事では、産業ケアマネの役割や必要とされる背景、資格の位置付け、働き方の実際までを整理します。
産業ケアマネとは
まずは、産業ケアマネがどんな立場で、何をする人なのかを確認します。ケアマネの資格との関係も押さえておきましょう。
企業と従業員の間に立つ介護の専門家
産業ケアマネは、企業で働く従業員が家族の介護に直面したときに、介護保険制度の使い方や介護サービスの選び方、仕事との両立の方法などを助言する、介護の専門家です。企業の人事部門と連携しながら、従業員が介護を理由に仕事を辞めずに済むよう支援します。
健康管理の分野で企業に産業医がいるように、介護の分野で企業を支える専門家というイメージです。
民間の団体が認定する資格
「産業ケアマネ」は、国家資格や法律にもとづく公的資格ではなく、民間の団体が認定する資格です。一般社団法人日本単独居宅介護支援事業所協会が2020年に認定を始めたもので、ケアマネ(介護支援専門員)の資格を持つ人が、企業の両立支援に必要な知識を身につけたことを示すものとして位置付けられています。
資格の取得方法や費用、更新の有無などは認定団体が定めているため、取得を考える場合は認定団体の最新の案内を確認しましょう。
ケアマネの仕事とどう違うのか
居宅介護支援事業所のケアマネは、介護が必要な高齢者本人を担当し、ケアプランを作って介護サービスを調整します。一方、産業ケアマネが支えるのは、介護をする側の「働く家族」です。ケアプランの作成や給付管理は行わず、従業員の不安を聴き取り、地域包括支援センターやケアマネなど適切な窓口につなぎ、仕事との両立の方法を一緒に考えるのが主な役割です。
産業ケアマネが必要とされる背景
産業ケアマネが注目されているのは、仕事と介護の両立が、個人の問題ではなく企業や社会全体の課題になっているからです。国のデータからその背景を見ていきましょう。
ビジネスケアラーは2030年に約318万人
経済産業省によると、仕事をしながら家族の介護をする、いわゆる「ビジネスケアラー」の数は増加傾向で、2030年時点では約318万人にのぼり、経済損失額は約9兆円と試算されています。介護による労働時間の減少や生産性の低下、介護離職が、企業の経営に大きな影響を与えるとされています。
出典:経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kaigo/kaigo_guideline.html
介護を理由に仕事を辞める人は年間約10万人
総務省の就業構造基本調査によると、2022年の調査で、過去1年間に介護・看護を理由に仕事を辞めた人は約10.6万人でした。また、介護をしながら働いている人は約365万人にのぼります。
出典:総務省統計局「令和4年就業構造基本調査」 https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2022/index2.html
介護に直面した従業員の多くは、介護保険の仕組みや相談先を知らないまま、仕事を続けるか辞めるかの判断を迫られています。早い段階で専門家に相談できる体制があれば、辞めずに済むケースも少なくありません。
2025年4月から企業の両立支援が義務に
2025年4月に施行された改正育児・介護休業法により、従業員から介護に直面したと申し出があった場合に、両立支援の制度を個別に知らせて利用の意向を確認することや、40歳になった従業員などへの早めの情報提供、研修や相談窓口の設置といった雇用環境の整備が、企業に義務づけられました。
出典:厚生労働省「育児・介護休業法について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html
企業にとっては、こうした義務に対応するために、介護の専門知識を持つ人材の力を借りる必要性が高まっています。
産業ケアマネの仕事内容
産業ケアマネの仕事は、企業との契約の形や、企業の規模によって異なります。ここでは代表的な仕事内容を紹介します。
従業員からの個別相談への対応
最も中心となるのが、介護に直面した従業員からの相談対応です。「親が倒れて入院した」「遠方に住む親の物忘れがひどくなった」といった相談に対し、要介護認定の申請方法や、相談すべき地域の窓口、使える介護サービスの種類などを説明します。介護休業や介護休暇など、勤務先の制度をどう使えば仕事を続けられるかも一緒に考えます。
介護休業と介護休暇の使い方を一緒に考える
相談のなかで特に多いのが、勤務先の制度の使い方です。育児・介護休業法では、対象家族1人につき通算93日まで、3回まで分割して取れる「介護休業」と、年5日(対象家族が2人以上の場合は年10日)まで取れる「介護休暇」が定められています。
出典:厚生労働省「育児・介護休業法について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html
介護休業は、介護そのものをするための期間ではなく、介護サービスの手配や家族の役割分担を整え、仕事と両立できる体制をつくるための期間として使うのが効果的です。こうした使い方を具体的に助言できるのは、介護の現場を知る産業ケアマネならではの強みです。
社内研修やセミナーの実施
介護に直面する前の従業員に向けて、介護保険制度の基本や、いざというときの相談先を伝える研修やセミナーを行います。改正育児・介護休業法で企業に求められている、研修の実施や早めの情報提供を支える役割でもあります。
人事部門への助言と制度づくりの支援
企業の人事部門に対して、両立支援の制度づくりや、介護に直面した従業員への対応方法を助言することもあります。介護の現場を知るケアマネだからこそ、「制度はあるが実際には使いにくい」といった課題に気づき、実態に合った支援につなげられます。
ケアマネの経験を産業ケアマネで活かすには
最後に、ケアマネとして働いてきた人が、産業ケアマネとして経験を活かすための考え方と、働き方の実際を紹介します。
現場で培った「つなぐ力」がそのまま活きる
産業ケアマネに求められるのは、介護保険制度の知識と、困っている人の話を聴いて適切な窓口につなぐ力です。居宅介護支援の現場で、利用者や家族の不安を聴き、地域の資源につないできた経験は、そのまま産業ケアマネの仕事に活かせます。家族の立場から見た介護の大変さを知っていることも、従業員の相談に乗るうえでの強みになります。
働き方は「副業」や「兼業」から始まることが多い
産業ケアマネとしての仕事は、企業と顧問契約などを結んで行うケースが多く、現時点では専業で生計を立てている人ばかりではありません。居宅介護支援事業所でケアマネとして働きながら、副業や兼業として企業の相談対応を行うなど、本業と組み合わせて始める人も多い働き方です。
現場の仕事を続けながら新しい分野に挑戦できるため、「訪問中心の働き方を少し減らしたい」「ケアマネの経験を別の形で活かしたい」と考える人にとって、選択肢の一つになります。
相談を受けるときは「仕事を続ける前提」で聴く
居宅のケアマネは利用者本人の生活を中心に考えますが、産業ケアマネの相談では、相談者が仕事を続けることが前提になります。「仕事を辞めて介護に専念したほうがいいのでは」と迷う相談者に対しても、介護サービスや勤務先の制度を組み合わせれば両立できる道がないかを一緒に探すのが役割です。介護の負担を家族だけで抱え込まないよう、早めにプロの力を借りることの大切さを伝えましょう。
企業向けの知識も身につける
産業ケアマネとして企業の信頼を得るには、介護の知識に加えて、育児・介護休業法の仕組みや、企業の人事制度、働く人の事情への理解も欠かせません。資格の取得に加えて、両立支援に関する国のガイドラインや、法改正の内容を学んでおくと、企業との対話がしやすくなります。
産業ケアマネについてのよくある質問
Q. 産業ケアマネは国家資格ですか?
A. 国家資格ではありません。民間の団体が認定する資格で、ケアマネ(介護支援専門員)の資格を持つ人が、企業の両立支援に関する知識を身につけたことを示すものです。
Q. ケアマネの資格がなくても産業ケアマネになれますか?
A. 産業ケアマネは、ケアマネの資格を持つ人を対象とした資格として位置付けられています。取得の条件は認定団体の案内で確認しましょう。
Q. 産業ケアマネの求人はありますか?
A. 企業が産業ケアマネを正社員として雇用する求人はまだ多くありません。企業との顧問契約や、両立支援サービスを提供する会社を通じて相談業務を行う形が中心です。
Q. 産業ケアマネとして独立できますか?
A. 企業と直接契約して活動することは可能ですが、安定した収入を得るには複数の企業との契約が必要になります。まずは本業と並行して経験を積み、実績を作ってから独立を検討するのが現実的です。
Q. 企業が産業ケアマネを活用するメリットは何ですか?
A. 介護に直面した従業員が早い段階で専門家に相談できるため、介護離職の防止につながります。2025年4月から義務化された両立支援への対応にも役立ちます。
産業ケアマネについてのまとめ
産業ケアマネは、企業で働く人が家族の介護に直面したときに相談に乗り、介護離職を防ぐ介護の専門家です。民間の団体が認定する資格で、ケアマネの資格を持つ人が対象です。ビジネスケアラーの増加や、2025年4月からの企業の両立支援の義務化を背景に、注目が高まっています。現場で培った「つなぐ力」を、新しい形で活かす選択肢として検討してみてください。

